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(元)三留女子大生の毎日

しごと、たべもの、すきなこと。

信じることの難しさ

「ケンカはした方がいいと思うねん。相手を屈服させるとか、血を吐いても殴り続けるやつじゃなくて、ちゃんとわかり合うためのケンカな。それやったら最初のうちにいっぱいしてわかり合っとくべきやわ」


昨日遊んだ男の子とカフェで話していたら、こんなことを言われた。彼は私と同い年だったけど、とても大人だった。そして私が付き合ってきた人たちのことをバッサリと「まともじゃない」と斬って捨てた。私は正直ホッとしたし、同時に自分はまともな人とは付き合えないのかなあ、と思ったりした。

「女の子ってさあ、結構態度に出すやん、嫌とか気に入らんことあったら。それでなんで気付いてくれへんのって言ったりするやろ」
「そうやなあ」
「それな、あかんで。男って鈍いねん。言わんかったらいつまでも気づかへんねんから」

まさに私だった。言わずに期待だけして外れたら勝手に怒って、何も言わずに不機嫌になっていた。理由を聞かれてもうまく答えられなくて、相手をしんどくさせていたのは私だった。

「言っていいもんなん?それって」
「え!むしろなんで言わへんの、今までどうしてたん」
「我慢してた。好きになってもらってんやし、合わせなって思って」
「ケンカは?せんかったん?」
「あんまりないなあ、なんか言われても全部私が悪いから、ごめんなさいって言って早く終わらせたかってん」


……そして冒頭に戻る。
ケンカはすべきだって、思ってもみなかった。我が家のケンカは、常に相手を屈服させて言うことを聞かせるためのものだったから恐怖でしかなかったし、できることならしたくないと思っていた。
相手が私の為を思って言ってくれるなら、それは聞き入れようと思ったけれど、自分の不満を伝えるのは違うと思っていた。
彼は続ける。

「我慢し続けて爆発するくらいやったら、最初のうちにいくらでもぶつかってケンカして、お互いのこと全部知ったほうがいいと思うんやん」
「……それで分からんかったら?」
「まあ、そこまでやろなあ。お互いのこと全部知ったうえで付き合ってたら、妥協するところとか譲れんところもわかるやろ?」
「そやなあ」


話は続き、付き合うってどういうことなのか、ということに至った。いつも告白されて付き合う側の彼は、最初はとりあえず付き合うか、というスタンスだったらしい。
けれど、少しずつ自分の好みかどうかで相手を選ぶようになり、次に「一緒にいて楽しいかどうか」を考えるようになった。そして、「この人を幸せにしたい」と思える人と付き合うようになった。前の彼女とは、結婚することまで考えていたという。それは、「どんなに苦しいときでもこの人となら乗り越えられそうだ」と思ったから。

それは、つまるところ「相手を信じること」に集約されるんだと彼は言ったし、私も思った。

ふと、元々彼のことを思い出した。
彼は剛直な大木のようでもあったし、風に吹き飛ばされそうな弱々しい苗木のようにもなる、不思議な人だった。でも、地面にちゃんと根を張り、どんな強風に煽られても、枯れそうになっても、最後の一本で持ちこたえた。どんなに弱音を吐いても、死にたいと言っても、絶対彼は立ち直っていたし、どうにかこうにか乗り越える強さがあった。

……私は、彼のことを信じていただろうか。勝手な理想を、彼に押し付けていただけではなかったか。

私が彼にしたことは、本当に最低なことだった。涙が出てきた。もうどうしたって彼に会うことも、言葉を伝えることもできないけれど、心の底から申し訳ないことをしたと思った。初対面の男の子の前で泣くなんてなあ、と思いながら、私は思ったことをポツポツと話したと思う。

「私は、前の彼のことをちゃんと信じてあげられへんかった。どんなにしんどくてもちゃんと立ち直れる強さがあったし、言ったことは全部やりきる人やったのに、私は信じてあげられへんかった。私のことずっと助けてくれたのに、私は全然助けてあげられへんかった。最低なこともした。だから、次に付き合う人のことはちゃんと信じてあげたいし、しんどいときにちゃんと助けてあげたい。この人やったら大丈夫って、信じて待てるようになりたい」


人を好きになるには、まず見た目から。
付き合うためには、その人と自分が合うかどうか。
そこまではなんとなく、上手にできるようになったと思う。

じゃあ、長く一緒にいるためには、どうしたらいいのか。
私はまだその答えが見えなくて、別れる理由がないからってなんとなく一緒にいたけど、それじゃ駄目だと気付いた。

人を信じるってとても難しい。私みたいに嘘つきの常習犯は、自分が言ってることが嘘だらけなんだから、相手の話もどこまで本当でどこまで嘘かわからなくて信じられないのだ。

だから、私は、正直にならなくてはいけない。
それはたぶん、嘘をつかないということより難しいことだと思う。嘘をつかなければひとりぼっちになってしまうと思っていたから。
人を信じるためには、自分が正直になるところから。

それがわかっただけでも、昨日は価値ある一日だと思ったのでした。